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レット症候群の遺伝子異常について

遺伝子診断(検査)をご希望の方
MECP2遺伝子

MECP2遺伝子とは

典型的レット症候群の90%以上の患者さんにおいて、MECP2遺伝子に病的変異が同定されています。MECP2遺伝子は性染色体のX染色体上にあります。この遺伝子からは、複数の標的となる別の遺伝子DNAのメチル化した部位に結合して転写を制御するメチル化CpG結合タンパク質2(methyl-CpG- binding protein 2,MECP2)が作られます。MECP2の制御を受ける遺伝子は多数あり、MECP2遺伝子の異常により発現量が増加する遺伝子もあるし、低下する遺伝子もあります。このように、レット症候群の病態は遺伝子DNAの塩基配列変化を伴わずにその発現量を調節する“エピジェネティクス”と呼ばれる遺伝子発現制御機構の異常と考えられています。レット症候群のモデル動物に正常量のMECP2を発現させるとその症状の一部が回復することから、回復が困難な神経変性疾患とは区別され、治療法開発のための研究が精力的に進められています。

遺伝子型と臨床型の関連

遺伝子変異の様子(型)から臨床症状を予測することは今のところ困難です。同じ遺伝子変異を有する患者さんの中でも臨床症状の重症度には差があります。その要因の一つがX染色体の不活化という現象が考えられています。X染色体は男性は1本しかありませんが、女性は2本あります。女性では、2本あるX染色体からの過剰な遺伝子発現を避けるために片方のX染色体は不活化されています。どちらのX染色体が不活化されるかは、個々の細胞で無作為に決まっています。例えば、変異MECP2遺伝子のあるX染色体の不活化が偏って多くなると、もう一方のX染色体からは正常MECP2が発現するので、そのMECP2変異のある女性は軽症か無症状になると考えられています。一方、MECP2遺伝子変異を有する男性は1本のX染色体しかないので、致死的な重症新生児脳症を発症するか、生まれてきません。このように、変異MECP2遺伝子を有する女性では、X染色体の不活化パターンによって臨床症状の重症度は異なります。実際に、MECP2遺伝子変異を有していても、レット症候群の診断基準を満たさない軽症例が存在します。このため、MECP2遺伝子異常があっても必ずしもレット症候群とは診断されない場合があります。それゆえ、レット症候群の診断は臨床症状に基づいたもので、遺伝子検査で決定されるのではありません。

遺伝子診断方法

塩基配列決定法によるMECP2遺伝子の変異解析では、典型的レット症候群の患者さんのおよそ80%に変異が同定されます。塩基配列決定法によって変異が検出されなかった場合には、MECP2遺伝子の数に変化(欠失や重複)があることがあります。この欠失や重複を検出するために定量的PCR法、MLPA法、アレイCGH法などの解析手法を用います。しかし、このような方法を用いても遺伝子変異が同定されない場合もあることが知られています。

遺伝カウンセリング

MECP2遺伝子異常によるレット症候群は、X連鎖性優性の遺伝形式をとります。しかし、患者さんの99%以上は散発例で、発端の患者さんのみに変異がみられる突然変異に起因するため、家族内での同胞発症はありません。しかし、まれに精子や卵子の前駆細胞である生殖細胞の病的変異モザイクを持つ親から遺伝する場合があります。さらに、極めて稀ですが、変異MECP2遺伝子のあるX染色体が選択的に不活化されている母親保因者から遺伝することがあり、この場合には変異が子どもに遺伝する確率は50%です。

CDKL5遺伝子

CDKL5遺伝子とは

CDKL5遺伝子は、乳児期よりけいれんが頻発する非典型的レット症候群(早期発症てんかん型)の原因遺伝子として同定されました。しかし、CDKL5遺伝子異常がみつかった患者さんの中に退行がみられず、非典型的レット症候群の診断基準を満たさない症例も少なくありません。典型的レット症候群では、3歳以前にてんかんを発症することはまれですが、早期発症てんかん型では乳児期早期から難治性てんかんを発症する点が特徴的です。CDKL5遺伝子はX染色体上にあり、リン酸化酵素cyclin-dependent kinase-like 5(CDKL5)を作ります。CDKL5は、神経細胞の核や樹状突起に存在しており、CDKL5の機能喪失はシナプス形成や細胞内シグナル伝達機構の異常を引き起こします。典型的レット症候群の原因遺伝子であるMECP2遺伝子はX染色体上に存在するため、患者さんは女児に限られ、男児は最重度の脳症を呈し致死的です。しかし、同じくX染色体上に存在するCDKL5遺伝子の異常による非典型的レット症候群(早期発症てんかん型)あるいはてんかん性脳症は、女児のみならず男児にも発症します。臨床的重症度は、男児の方が女児よりも重症であることが多いです。

遺伝子型と臨床型の関連

CDKL5遺伝子異常による臨床像は多様で、てんかんがコントールされ歩行可能な軽症例から、難治性てんかんを伴い重度の精神運動発達遅滞を呈する重症例まで幅が広いことが知られています。遺伝子型と臨床像との関連を明らかにするには多数例での検討が必要で、今後の課題のひとつです。これまでの研究では、CDKL5の酵素触媒ドメインの変異では重症化しやすい傾向があることがわかっています。

遺伝子診断方法

ミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異の報告例が多いです。しかし、エクソン単位での欠失例の報告もあり、塩基配列決定法によっても変異が検出されない場合には、遺伝子DNAの量の異常が考えられ、定量的PCR法、MLPA法、アレイCGH法などを用いた解析が必要となります。

遺伝カウンセリング

一般に、家族内での同胞発症はありません。これまでの報告は、患者さんのみに変異がみられる突然変異に起因したものです。しかし、3人の同胞発症のあった家系例の報告があり、このような場合は生殖細胞の病的変異モザイクを持つ親から遺伝した可能性が考えられています。

FOXG1遺伝子

FOXG1遺伝子とは

生後早期から重度の発達障害がみられる“先天型”と呼ばれる非典型的レット症候群の患者において、FOXG1遺伝子の機能喪失性変異がみつかっています。FOXG1遺伝子は、14番染色体長腕に位置し、脳の発生、特に終脳の発生に重要な転写因子forkhead box G1(FOXG1)を作ります。
FOXG1遺伝子変異を有する患者さんは、小頭症や常同運動がみられる点でレット症候群に類似しますが、乳児期より著しい小頭症を呈し、前脳の発達異常や脳梁低形成をみる点が特徴的です。また、上肢の速くて激しい動きや舌を突出させる動きを伴う常同運動は、典型的レット症候群でみられる手もみ様運動とは異なります。発達障害が重度であるために、非典型的レット症候群と診断する上で必須とされる「退行」がみられない症例が多く認められます。

遺伝子型と臨床型の関連

FOXG1変異に関連した臨床症候は比較的均一です。有意語の表出や歩行が可能になった症例の報告はありませんが、支えると立位をとれる軽症例の報告があり、遺伝子型から臨床症状を予測することは難しいと考えられます。
遺伝子診断方法: 塩基配列決定法によっても変異が検出されない場合には、定量的PCR法、MLPA法、アレイCGH法などを用いた解析が必要となります。

遺伝カウンセリング

FOXG1遺伝子変異に関連した脳症は、常染色体優性遺伝形式をとります。現在までに家族内での同胞発症の報告はなく、患者のみに変異がみられる突然変異に起因したものばかりです。

遺伝子診断(検査)をご希望の方はこちらへご連絡下さい。
伊東雅之
  • 電話042-341-2712(内線5823)
  • FAX042-346-1743
  • Emailitoh★ncnp.go.jp
    ※メールご送信時に、★を@に置き換えてください。

※遺伝子検査のご依頼は、必ず主治医からご連絡して頂くようにお願い致します。
※尚、ご連絡される場合は「NPO法人レット症候群支援機構」からの紹介とお伝え下さい。

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